クラクションは時間を引き延ばしたようにいつまでもけたたましくなり続けている。
その音に圧倒されオレのまるで身体の動かし方を忘れてしまったように固まったまま後ろを振り返ることが出来ずにいた。
なんとかして地面に張り付いた足を引き剥がして歩道を振り返る。
そこにはクラクションをけたたましく鳴らす車が歩道に乗り上げ電柱に衝突して止まっていた。
「うそだろ……」
俺に衝撃を与えたのは歩道に乗り上げた車よりも、そのそばでピクリとも動かず地面に横たわった楓の姿だった。
雨が降っているにも関わらず、楓の周囲は鮮血の赤で染まりその範囲を広げていく。
悪夢のような光景にオレの身体は未だ自由が利かない。
こんな時はどうすれば良い……
どうしてこんなことになった……
誰の所為でいでこんな……
狼狽えるオレをよそに誰かが楓に駆け寄る。
「楓、しっかりしろ! おい!」
彼は手早い判断で楓を仰向けに寝かせ救命処置を施していく。
まるで映画のワンシーンを見ているようで現実感は皆無だった。
ただその場に立ち尽くだけしかできなかったあの時のオレを今でも恥じている。しかし、あの時のオレに何が出来たのか。その答えは見つかっていない。
それにも関わらず、記憶は残酷にあの時の事を消し始めている。