わたし――聡くんが好きなんだ。

 激しく落ちる雨音の中でも彼女の声はよく通った。

 とくに前触れがあったわけじゃない。そういった話をしていたわけじゃない。

 聞き間違いだったのだろうか。聞き直したいけれど、それをすることは男として駄目な気がする。

 すぐ隣でオレを見上げる彼女は自身の髪の色と同じように僅かに頬を赤く染めて震えている。
 
 いつもは元気で強気な彼女が今だけは小動物のようだった。

「わたし、聡くんが好きなの」

 反応を見せないオレにもう一度同じ言葉を、今度は溌溂とした声で言った。
真剣な目で見つめる彼女の瞳に嘘や冗談を感じない。目の前で起こっていることが信じられなくて、素直になれなくて、

「な、なんだよ。いきなり」

 気持ちとは裏腹なことをオレは口走っていた。

「えへへ。そうだよね。どうしてこんなこと言ったんだろう」

 彼女はいつも以上に照れくさそうに笑う。痛々しい笑顔をオレは見ていられなくて逃げるように傘から飛び出る。

「まって車」

 耳を劈くブレーキ音が彼女の声を切り裂いていく。

 まっすぐな言葉にちゃんと向き合わなかった自分を今でも恥じている。