駐車場を渡り終えた私達は、レストランを目指す。

レストランに向かう途中、左から中年の男性が歩いてくる。

その男性は白杖を持ち、一歩一歩を確認しながら歩いている。

私は、ぴょんぴょんと、はしゃぐ娘の手を引っ張り、立ち止まる。

娘は驚いて、私の顔を見上げる。

「あの人が通るのを待とうか」

私は娘に言う。

その男性は白杖の先端で点字ブロックの形を細かく捉えて歩く。

私達の前を通り過ぎていった。

「あれ何? 何で棒で突いているの?」

娘が言う。

「目が見えない人だよ。あの棒を使って、前に何があるか確認しているんだ」

「へえー」

私の言葉に娘は驚いた表情を見せる。

私達は再びレストランへ足を進める。

「ねえねえ、私、歩けているよ、凄い?」

娘が大きな声で言う。

娘は目を閉じながら歩いていた。

娘が私と妻の手を強く握る。

「そうだね、凄いね」

私は娘に言う。

「うん!」

娘は目を閉じ、手を繋ぎながら、スキップで足を進める。

おぼつかない足取りのスキップ。

時々、繋いだ手が引っ張られる。

「レストラン、ずいぶん混んでいるね」

妻が言う。

レストランの外まで、人が並んでいた。

「本当だな、ちょうどお昼時だからな」

 私達は、列の最後尾に並んだ。

「ハイキング間に合いそう?」

妻が私に訊ねる。

「今日のハイキングは家族向けのコースで、目安時間は三時間って書いてあったから大丈夫じゃないかな」

私は答える。

「良かった。じゃあ何食べようかなー」

妻はそう言いながら、レストランの前に並ぶ、のぼりを見ている。

のぼりは、地域限定のアイスクリームを謳っている。

「まーた、甘い物を食べようとしているな」

私は不敵な笑みで妻に言う。

「別に。食べたいわけではないけど、どうしても食べて欲しいって言うなら、食べてもいいんだから」

妻はそう言うと、高飛車に言いながら顎を上げる。

妻のその行動を見た娘も真似をする。

顎を上げて高飛車を装い、頬が膨らんでいる。

その娘の行動はとても愛くるしい。

私と妻は顔を見合わせて、ふふふと幸せを分かち合った。