「……何?」
「傘、忘れたんだろ?」
「……持ってるし」
「んな見えすいた嘘吐くなっての。ほら、入れてやるから。行くぞ」
「……」
鉛色の空からしとしとと落ちてくる、小雨。
本降りになる前に帰るぞ、という彼の声と同時に引き寄せられる身体。それに私はどうしようもなく嬉しくなる。
別にこれくらいの雨なら、傘なんて無くても帰ることはできた。
なのに学校の昇降口で彼を待っていた私。
彼が知ったら、"お前馬鹿だろ"って笑うんだろう。
「お前、折り畳み傘くらい常備したら?つーか天気予報見ろよな」
「……やだね」
「やだねって……本当お前意味わかんね」
「いいんだよ。意味わかんなくて」
あんたと一緒に帰りたかったから、なんて。そんな私の気持ちは、あんたは知らなくていい。
「本当世話のやける奴だなお前は」
「うるさい」
呆れたような視線に、イライラが募る。