手元に残された彼女の傘にふと笑みがこぼれてしまう。
最初、彼女の事を幽霊なんじゃないかって疑った自分が恥ずかしくてバカバカしくて笑えて来る。

「本当に……もう少し、話したかったな……」

他愛も無い会話だったけれど、すごく楽しかったしもっと話したかった。
それに……森本さんの事をもっと知りたいなとも思った。
どんな絵を描くのか興味があるし、どうしてそんな寂しそうな顔をするのかというのも気になったし……。

『次にお会いした時に返してください。……約束ですよ?』

そう言った、彼女の必死な表情を思い返したら胸がチクチクと痛んだ。
そんなに必死にならなくても、会おうと思えば会えるよ。
学年が違うから会える回数は少ないかもしれないけれど、同じ校内にいる限り、会えるから……。
会えなくても、俺が彼女に会いに教室に行くし!


雨風が吹き込むバス停で、俺は彼女から手渡された傘を広げた。
すでにバスの到着時刻となっているのに、バスの姿は見えない。
かなり激しく雨が降っているし、道路が混んでいるのかもしれないな……。
そんな事を考えながら、バスの屋根越しに灰色の空を見上げた。

まだ雨はやみそうにない。