「……乗らないんですか?」
「うん」

残念だけど、俺が乗るのはこのバスじゃないんだ。
せっかく楽しくなってきたと思ったのに、この時間が終わってしまう事が、残念でならない。
また……こんな風に話せる時間がくるかな?

「あの、また会えますか?!」

彼女を見送ろうとしたら、必死な形相で聞かれた。
森本さんも俺と一緒で、今のこの短い時間を楽しんでくれていたという事?
同じ事を考えてくれていた事に、俺は嬉しくなって、少し照れながらハハッと笑った。

「会えるよ。今度はここじゃなくて……美術室でたくさん話そうよ」
「……はい!」

俺の言葉に、森本さんは笑顔で小さく頷いた。

「……永瀬先輩、使ってください」
「えっ?」

森本さんは閉じた傘を俺に差し出してきた。

「え、でも……」

その行為に戸惑う俺。

「次にお会いした時に返してください。……約束ですよ?」

半ば強引に傘を俺に押し付け、森本さんは微笑んだ。
俺に傘を貸したら、バスから降りる時に森本さんがびしょ濡れになるというのに……。

「ありがとう……」

有無を言わせないほどの目力に負けて、俺は傘を受け取った。

「約束、守ってくださいね」

彼女が最後にそう言って、バスに乗り込むと、プシューッと音をたてて扉が閉まる。
ブロロという音をたてて、ゆっくりとバスが走り出していく。