こんな事なら急ぐ必要なんてなかったな。
小雨になるまで、部室でいつものようにみんなとバカ話で盛り上がったり、マンガを読んだりして時間つぶせば良かった。
そう思うけれど、さすがにこんな土砂降りじゃ、部室に戻る気にもなれず、おとなしくスマホを見ながら次のバスを待つ。
週末には大会が控えている。
雨の試合ほど最悪な事はないので、絶対に晴れて欲しい。
お互いに条件は同じだが、できる事なら100%の力が出せるようなコンディションのいい状態で試合がしたい。
そんな事を思いながら、祈るように週末の天気予報をスマホで見ていたら、さっきまで吹き込んでいた雨風がやんだ。
……いや、やんだのではなかった。
顔を上げると、俺のすぐそばで傘を差し出す女子生徒の姿があったんだ。
音も無く突然現れた彼女に驚いてしまったが、吹き込んでいた雨風から守られたのは、彼女の傘のおかげだ。

「ありがとう……」

お礼を言うと、彼女は無言のままフワッと柔らかく微笑んだ。