最近は良い事が続いているから心が軽くてフワフワしてしまう。
「佐藤さん、凄い笑顔ですね。改めて結婚おめでとうございます。」
結婚をする約束をした花火大会の次の日の営業準備中に凌君と菜々ちゃんに伝えたら祝福の言葉を貰った。
「あ、やっぱ浮かれてるの分かっちゃうよねー。」あれから数日経ったのにまだ気を引き締めておかないと口角が緩んでしまう。
ガラッと扉が開き「いらっしゃいませ。お好きな席どうぞ。」と菜々ちゃんがお客さんを案内している声が聞こえる。お客さんが俺を呼んでいるって菜々ちゃんが言うから文句を言われるのかと思って厨房を出るとテーブル席に香織が座っていた。
「へへっ。こんにちは。」
「えっ、どうしたの。」
驚いて言葉が思うように出ない。
「佑君が働いている姿をまた見たくて。今日バイト休みだしいいかなっと思って来ちゃった。」
ワクワクしているのか香織は店の中を見渡していた。
「ご注文はどうされますか?」
「おぉ!働いてる佑君はやっぱ新鮮だね。日替わり定食一つ下さい。」
何だか家と違うからかむず痒い。
「少々お待ち下さい。」
一礼して厨房に戻ると凌君は日替わり定食の生姜焼きを焼いてくれていたけど奈々ちゃんは話を盗み聞きしていた。
「凄いお似合いですね。なんか王子とプリンセスが話しているみたいでしたよ。」
奈々ちゃんは大袈裟だ。でも香織が来てくれたのは驚いたけど嬉しかった。
「佐藤さん、将来のお嫁さんに渡しに行ってきて下さい。」
奈々ちゃんはニヤニヤしながらお盆を渡してきた。完全にいじってきてる。
厨房を出て「おまたせしました。日替わり定食の生姜焼きです。」
と言って香織の方を見るとずっと香織も見てくる。「え、何?」
「佑君凄い楽しそうだね。充実してるって顔に書いてる。」
香織は微笑みながらそう言った。香織の言った通り今の俺は充実してる。凌君は頼りになるし菜々ちゃんも店を明るくしてくれるし、店に来てくれる人も増えてより一層やりがいを感じている。そして香織は俺にとってはかけがえの無い存在。そんなみんなと笑って日常を送れる、そんな毎日が凄く楽しいと思えるのも香織のおかげだったから急にお礼を言いたくなった。
「いつもありがとう、香織。」
「こちらこそだよ。あっ、用事あるからそろそろ行くね。」
そう言って香織は会計をして店をあとにした。

家に着いてドアノブをひねると閉まっているせいかドアが開かなかった。
いつもだったら香織が先に帰ってきているのに帰ってきていないって事はエキザカムで言っていた用事がきっとまだ終わっていないのだろう。
しょうがないから持っていた鍵で開けて中に入ると真っ暗な部屋が広がっている。電気をつけ部屋着に着替えてもすることが無いためスマホをいじって待っていることにした。
カレンダーを見ると今日、八月二十日は俺の誕生日だった。最近は忙しかったから誕生日の事なんてすっかり頭の中から消えていた。香織は俺の誕生日を祝うときは張り切って料理をしてくれるから材料を買いに出掛けたのかもしれないとワクワクしていると携帯が鳴った。
画面を見ると『沢田香織』と表示されている。
買いすぎて迎えに来てほしいとか言われるのかなと思って電話に出ると見知らぬ男性の声だった。
「もしもし。香織どう…」
「佐藤佑さんですか。今すぐ総合病院に来てください。沢田香織さんの命が危ないです。」
脳が理解する前に