時計を観るともう18時40分、花火開始まであと20分しかない。
「時間もないしいつも見てる所まで急ごう。」
と言って隣を見ると明らかに無理している香織の姿に目がいく。
「そうだね。じゃあ走ろうか。」
毎年15分くらい歩いて人の出入りが少ない公園に行って二人だけで見るのが恒例行事だったけど今はそういうわけにもいかない。
「ほら、乗って。」
「え、大丈夫だよ。早く行かないともう花火打ち上がっちゃうよ。」
香織は必死でバレないようにしてる。
「下駄で歩くの疲れちゃったでしょ?休憩がてら乗りな。」
そう言うと香織は申し訳無さそうに乗ってきた。よいしょっと持ち上げると軽すぎてちゃんとご飯食べているのか心配になる。
「佑君、せっかくの花火大会なのにごめんね。浴衣で来なければ良かったよね。」
「なんで香織が謝るの。俺がもっと早く気付くべきだった。」
少し歩き進めると近くに電灯もないひっそりとした駅が見えてきた。
外のベンチに座ると頭上から凄い音がする。
見上げると視界いっぱいに花が咲いた。花火は赤や青など色を変え夜空に沢山の色をつける。そのどれもが手を伸ばしたら届きそうなものだけど手に入ることはなくパラパラと消えていく。
隣を見ると足が痛いことも忘れ香織も夜空を見つめていた。
「香織、結婚してくれないか。」
夜空を見上げてる香織の姿に見惚れて口走ってしまった。本当はもっとちゃんと言うつもりだったのに。
「ごめん、今のわす…」
「もちろん。ずっと佑君といるよ。」
聞き間違いかと思ったが香織は微笑みながら目から一粒の涙を流した。
その涙は花火の光に照らされて、今まで見た香織の涙の中で1番綺麗で儚いものだった。
自然に体が引き付け合い、唇と唇が触れ合うだけの軽いキスをする。
そのキスは涙が出るほど温もりがある優しいものだった。