「ただいま。」
ドアを開けて中に入るとカレーのいい匂いが部屋中に漂っていて俺のお腹は我慢の限界とでも言うように地響きかのように低い音でお腹が鳴る。
「おかえり。丁度今出来たから手洗ってうがいしてきて。」
今朝の機嫌の悪さは既に消えていた。手洗いうがいを済ましてリビングに行くとカレードリアとサラダが置かれていた。ご飯は俺の帰りが遅いからほとんど一緒に食べない。だけど、香織は俺の正面に座ってお茶を飲みながら一日の出来事を話すというのが日課になっている。
「いただきます。……うん、やっぱり香織が作る料理は美味しいな。」
そのまま食べるとスパイスが効いているし、ドリアの真ん中にある半熟卵を潰すと、中からトロッと出てくる黄身にカレードリアを絡ませて食べるとまろやかになって2度楽しめる。これが最高に美味しい。
「料理人の佑君に褒められると嬉しいよ。もっと頑張ろうって思えてくる。」
「いや、俺より凄い人なんて沢山いるよ。料理人なんてまだ言えない。」
お客さんが増えても自分の料理に自信を持って良いのか不安になる。誰かに言われた訳でもないのにいちいち考えてしまう自分に嫌気がさす。
「佑君のご飯また食べに行きたいな。今はお花屋さんのバイトで大変だけど、絶対また行くからね。佑君の料理美味しいもん!」
香織は俺が落ち込むと今みたいに元気をくれる。それに比べて俺は変な所でウジウジしているから精神的に弱いと思い知らされる。
「ありがと。香織は?花屋のバイトどんな感じなの?」
香織は私も働くと言って花屋でバイトとして最近から働くようになった。
「すっごい楽しいよ。大好きなお花に囲まれているし店長の飯島さんも優しくて良い人だし、お客さんともお花の話いっぱい出来るし毎日本当に充実してるよ。」
食い気味で目を輝かせながら話す香織を見て本当に楽しいんだと一目瞭然だ。香織は身長が153センチで小柄のためいじめられやすい印象だけど店長の人も良い人そうで安心した。
「あ、そうだった。これ食べたくなったからコンビニで買ってきた。」
そう言ってさっき買ったコンビニの袋を香織に差し出した。
「何だろ。…あ!シュークリームだ!佑君は相変わらずプリン大好きだね。」
シュークリームを手にして目を輝かせていたのも一瞬で直ぐにうるうるとした目でじっと見てくる。「佑君イジワル!ダイエット中だからシュークリーム食べれないじゃん。」
香織がダイエット中だったのを忘れて買ってきてしまった。
「すっかり忘れてたわ。でも、買ってきちゃったし勿体ないからおやつとかで食べてよ。」
そう言って俺は風呂にさっさと入る。風呂に浸かると今日の疲れが溢れ出るお湯と共に流れていく感じがする。
俺が風呂から出ると香織は麦茶を片手に放送中のドラマを観ていた。
「香織、俺風呂出たし入りなよ。あと、シュークリーム食べないなら冷蔵庫入れときな。」
「ねぇ観てよ佑君。このシーン最高じゃない?」
俺の言った事は無視してテレビを観るように言ってくるからしょうがなく観ると、彼氏が彼女に夕日が反射する海辺でのキスをする所だった。俺は恥ずかしくなってその場から逃げ出したくなる。
 でも、ふと思ったが俺たちは最近全くキスをしなくなっていた。
高校の頃はいつか香織が俺の側から居なくなるんじゃないかと不安で隣にいてくれるのを確認するように何回もキスをした。
今思うとそれほど香織に依存していたのだろう。
いつも短いキスをした後、2人で笑い合っていたけど今はキスで確認しなくても隣を見れば香織がいる。
佑君って笑顔で俺の名前を呼んでくれるし、俺が香織って呼ぶと嬉しそうに振り向く。

そんな日常が当たり前でこれから先もずっと続くとこの先の未来なんてわかる訳がないのにどこかで確信していた。

だから俺は別に今、愛情表現をしなくてもこの先いつでも出来ると思っていた。

この先の将来がバラバラになることも知らずに。