それから一年が経ち俺の誕生日と香織の命日がやってきた。
これまでの間で変わったことと言えば、俺が料理本を出してエキザカムは前より繁盛していて忙しくなった。凌君は凄い勢いで上達していて、菜々ちゃんは相変わらず客からの人気が高い。
香織がいないから悲しくて少し泣く時もあるけど、もっと有名になって死んだときに香織に沢山話すから頑張ろうと奮い立たせている。
でも今日は休みだから行きたかった所に向かっている。
「こんにちは。」
目的地についたけど入って良いのかためらっていると奥から40代くらいの女の人が出てきた。
「はーい。…もしかして貴方、香織ちゃんの彼氏さん?」
「はじめまして、佐藤佑です。」
ここは香織が勤めていた花屋。
前から行こうとは思っていたけど、花屋に行ったら香織のことを思い出してまた振り出しに戻るんじゃないかと不安になって勇気が出せずにいた。
「あのエキザカムってありますか?花束にして欲しいんですが。」
エキザカムは俺たちが付き合ったときに香織が花束にして俺にくれていたし、同棲を始めてからは必ず家に置いてあったから無いとなんか物足りない。「この花、香織ちゃんが大好きで毎日のように力説してくれたよ。そういえばこの花言葉って知ってる?」
着々と飯島さんはエキザカムを花束にしながら時々香織のことを思い出しているのか遠くを見ていた。
「花言葉は香織も言っていなかったので分からないです。」
飯島さんは少し驚いた表情をしたけどニコニコしながら
「花言葉は自分で調べてみな、きっとこの花の見方変わると思うよ。」
そう言って代金と引き換えに花束を受け取る。
「なんで俺のことすぐわかったんですか?」
店に入った俺を見て飯島さんはすぐ香織の彼氏って分かったことに疑問を抱いていた。
「香織ちゃんがスマホの中にある写真を見せながら私に沢山の思い出話をしてくれてね、一人でずっとここの花屋をやっていたから若い子と話すのは凄い楽しかったわ。」
「そうだったんですね。また色々な花を買いに来てもいいですか?」
香織が大好きな店だったからこそ、俺も通いたいと思った。
「もちろん。いつでも大歓迎よ。」
それから飯島さんとわかれて家に帰った。
家に帰って汚くなった部屋を掃除していると、事故以来、隅に置いといた香織のカバンに目がいく。
中を覗くと財布やハンカチの間に白い封筒が入っていて宛先を見ると『佐藤佑さんへ』とあった。
驚いたけど封筒を開けると白い便箋に香織の可愛らしい字で綴られていた。

『佐藤佑さんへ 初めて佑君に手紙を書くから文章が変でも色々言わないでね。本当はプレゼントを渡そうと思っていたけど手紙で気持ちを伝えるのも良いかなと思ってこういう形にしました。
 佑君とクラスが同じになった時この人怖い、関わると絶対ヤバイというのが第1印象でした。佑君に話しかけられた時に驚いてビクビクしていたの気づかれてたかな。でも話していくにつれてどんどん魅力的だなって思って、いつの間にか佑君と話すことが目的で学校に行っていました。初めて一緒に行った花火大会の時に耳を真っ赤にしながら告白してくれて凄い嬉しかったよ、ありがとう。これからも前と変わらず沢山の思い出を作っていこうね。何事にも一生懸命で、意外とすぐ泣いちゃう所、私の作る料理を美味しいって言いながら食べてくれる姿、何よりもこんな私とずっといてくれる佑君に出会えて本当に私は幸せ者です。これからもよろしく。誕生日おめでとう。 沢田香織より』

読み終えた時には頬は涙で濡れていて手紙も落ちた涙で滲んでいた。
そして封筒の中にはまだ何かあって手に取るとエキザカムと写真を撮った香織の姿があった。
写真の裏には付箋が貼ってあって
『エキザカムの花言葉を調べてみてね。その花言葉は私から佑君へ高校からずっと変わることのない想いだよ。』
と書いてある。そういえば、飯島さんも花言葉について言っていたことを思い出してスマホで調べて出てきた文字を読んで余計に涙が溢れ出した。

     『あなたを愛します』

香織は俺が好きと言っても笑っているだけだったけど、ちゃんと答えてくれるように夏になるとエキザカムを飾っていたなんて香織らしいなと思った。
また香織を思い出して何回も泣くかもしれないし心が折れる時だって絶対ある。
だけどそんな時は俺の周りにいる沢山の人から助けを求めてみてもいいのかもしれない。
そしていつか香織の元へ行ったら人生の思い出話しを話してやるんだ、そう決めて玄関の扉を開けると夏の風が俺の顔をなぞる。
その風は香織が空から見守っているかのようにとても優しい風だった。