「おはよう。話したい事がある。〇〇病院に来て欲しい」 

彼女から来たメール。鼓動が早くなる。何となく、別れが近いんじゃないかと思っていた。毎日飲んでいた白い錠剤。いつも悲しみに満ちた表情で、それでも太陽みたいな笑顔で明るく振る舞っていて。僕は頭をフル回転させ、今日のシナリオを考えながら走っていた。最後のシナリオは僕が作る。彼女は喜んでくれるだろうか。

病室の扉を開ける。

四角いベッドには彼女が寝ていた。今日の顔色は青白い。彼女の為に僕は何が出来ただろうか。

「ごめんね、真山くん……」

「僕の名前?」
「うん。あなたの事、知ってたんだよ。あの会社で働いていて、休憩中にはあそこで座って。私もね、一緒のビルで働いていたの。あの日、わざとコーヒーを倒れる位置に置いてたんだ。あなたと話したかったから……」
「え?知らなかった」
「余命があと一週間だったあの日、わざとあなたと知り合った振りをして、7日間だけの恋人になってもらった。毎日憧れていたデートのシナリオなんか送ってね。ごめんね、付き合わせちゃって」

彼女がそんな仕掛けをしていたなんて。余命が今日まで?そんなの信じられるわけない。

「僕は幸せだったよ。君と過ごした7日間。だって……」
僕は背中に隠していた、真っ赤な薔薇の花束を差し出した。


「ベタかもしれないけど、僕は君の事が好きだ。付き合って下さい!」


僕の目からも、彼女の目からも同じ雫が絶え間なく溢れ落ちている。彼女は細い腕を伸ばし、花束を胸に抱き締めた。昨日よりも消えそうな細い声で、彼女は呟く。

「ありがとう、真山くん。私もね、ずっとあなたが好きだったよ……ありがとう」
その笑顔はやっぱり太陽みたいにキラキラしている。僕は彼女を包み込む様に抱き締めた。


「ごめんね、ごめんね……付き合えないよ」
「うん、いいよ……僕も君に会えてよかった」
両想いだって分かった途端、お別れなんて酷すぎないか?こんなに大好きになったのに。

「私の名前、最後に教えてあげる。花乃(かの)って言うの」
「そっか、可愛い名前だ。花乃、好きだよ」


青白い唇にキスを落とした。最後のキスは、優しくて甘い薔薇の香りがした。
僕たちのラブストーリーは、悲しい結末を迎えたのだった。



僕は花乃と出逢った植込みに座っていた。彼女が好きなコーヒーを片手に持ちながら。君が早く仕掛けをしていたら、僕たちはもっと幸せな時間を過ごす事が出来ただろうか。

キャラメルマキアートから始まった恋。
7日間だけのラブストーリー。
僕はその物語を一生忘れない。
彼女の事を絶対忘れない。


彼女は、僕の記憶の中でずっと生き続ける。


end