6日目は遊園地デート。
手を繋いで歩きながら、何に乗ろうか話していると彼女が何か飲みたいと言い出した。キッチンカーに並びながら、僕はドキドキが止まらず手に汗が滲んでいた。今日のミッション。〝観覧車でのキス〟があるから。

「はい、キャラメルマキアート」
「ありがとう」

僕はアイスコーヒー。プラスチックカップを持つ手が震える。ミッションが失敗したら、明日のデートはキャンセルになるのだろうか。彼女がカップに口を付けて飲む。その光景を見るだけで鼓動がまた踊り出す。キスのミッションの影響だけじゃない、僕は君の事が……。

僕たちは絶叫系が苦手だったので、メリーゴーランドや汽車、クルクル回る飛行機などに乗った。やがて乗らなきゃいけない観覧車を避けていたのかもしれない。僕は彼女の名前すら知らなかった。お互いがお互いを君と呼び合う。その方が秘密の恋みたいで楽しい、と彼女は笑った。

空がだいぶ影を落とし、遊園地に明かりが灯り始めたころ「観覧車に乗りたい」と彼女が言い出した。ついに来た。2人で観覧車に足を踏み入れる。隣り合って座ると、いつもはたくさん喋る彼女が何故か黙り込んでいる。その瞳はいつも遥か遠くを見ている気がするのはどうしてだろう。聞きたいけど聞けないでいる。

「ありがとう。私に夢をくれて」
「え?どういう事?」
「君に会えてよかった」
「え?どういう……」

僕の言葉を遮る様に、彼女の唇が優しく触れた。悲しいキスだった。離れた彼女の目から流れ出した一粒の涙星。僕は彼女を抱き締めた。ずっと一緒に居たい、そう思う。明日までの限定の恋。観覧車が地上に着くと、僕たちはまた手を繋いで歩き出した。


〝君に会えてよかった〟


その意味が分からないが、僕は星空を見上げながらある決意をしていた。
明日、最後の日に、気持ちを伝えたい——。


7日目の朝、
彼女から届いたのは、デートのシナリオではなかった。

僕は急いで病院へと駆け出した。