二重人格。


実際にそんな人が居るなんて、
その存在を目の当たりにするまで信じられなかった。



昨日、あの後零だと名乗る千太郎を、
私は再び自分の部屋へと連れ帰った。

「本当に、あなたは千太郎じゃないの?」


「ああ」


「本当に本当に、あなたは千太郎じゃないの?」


「ああ…」



「本当に本当に本当に、千太郎じゃないの?」


「うっせぇな。
なら、もう千太郎でいいだろ」


私にだるそうな視線と言葉を返して来る目の前のこの人物は、
確かに、千太郎ではない。


体や顔は千太郎なのに、
中身が違うだけでこんなにも変わるものなのか?


一流の役者でも、こんなガラッと変われないんじゃないかって思う。



「つーか、お前にはなんか話しちまったけど。
入れ替わったの他の奴に言うなよ」


「言うなって、誰に?」


「ほら?
千太郎の親とかだよ。
とにかく、誰にも言うな」



「なんで?」


さらに質問すると、その零だと名乗る人物は、ため息をついた。



「病院とか連れて行かれたら、たまんねぇ。
医者は、俺の事を消そうとするかも
しれねえ。
二重人格で、それは病気だって」


「あ、うん。そうなるだろうね」


「俺は、何年もずっとずっと千太郎の中で、こうやって出て来られるのを待ってたんだ。
消されて、たまるかって」


その気持ちは、分かった。



その別の人格である零が消えるって事は、
この人にとっては、死、を意味する。