千太郎がもう一人の人格だと言って名乗ったあの零は。
私が当時ハマっていた不良漫画の、大好きなキャラにそっくりだった。
そのキャラの名前というか、コードネームがゼロ。
レイとゼロ。
本当に名演技で、当時はすっかりと本当に二重人格なのだと騙された。
それが千太郎の演技だったと気付いてしまったのは、
私が段々と大人になったからだろうな。
私が昔優しい千太郎が好きだって言ったから、
私の前ではその優しい千太郎のイメージをずっと守り抜いてくれてたんだって。
だけど、そんな千太郎から時々垣間見えてしまう、あの零の姿。
千太郎と零、どっちが演技なのか、
それとも、二人とも本当なのか。
分からないけど。
「今日は、本当におめでとう」
千太郎は、今日の朝あのマンションの自宅を出た。
明日からは、千太郎とはもうお隣さんじゃなくなる。
「ありがとうな。万理」
最後にもう一度だけ、零に会えた。
今、失恋したように胸がギュッと痛むのは、
千太郎に対してなのか、それとも零に対してなのか。
〈終わり〉