「一原先輩お久しぶりです」
久しぶりに見た一原先輩は、
昔のヤンチャしていた面影がないくらいに、
洗練された大人の素敵な男性に変わっていた。
「万理、お前いい加減その呼び方辞めろよ」
「だって、一原先輩がそう呼べって。
学校で、馴れ馴れしく‘一平兄ちゃん’なんて呼んだらキレるからなって」
「ああ。
あの頃、俺も常に苛ついてたからな。
なんか、学校でそうやって一平兄ちゃんとか呼ばれんの、恥ずかしいなぁって」
そう言って、一原先輩である一平兄ちゃんは笑っている。
中学に入る頃かその前からか忘れたけど、
私は一平兄ちゃんが好きだった。
私の初恋の相手。
そんな彼は、千太郎の兄。
多分、私があれほど不良っぽい男の子が好きだったのは、
一平兄ちゃんの影響だろうな。
「けど、暫く見ないうちに、万理大人っぽくなったな。
お前昔俺の事好きだったろ?
なら、付き合うか?
俺、今彼女居ないし」
一平兄ちゃんに、私は告白した事はなかったけど、
そうやって私の気持ちは知られてたんだな。
「私、今は一平兄ちゃんみたいな不良は興味ないんです」
昔、あれほど悪い感じの人が好きだったのに、不思議。
「えー、じゃあ今はどんなのがタイプだよ?」
「んー、今は優しくて、穏やかな人」
「ふーん。
千太郎みたいなのか」
今の私は、千太郎みたいな男性が好き。
かと言って、千太郎に対して、そんな気持ちはないけど。
今は。
千太郎に対しては、もう過去の事。
今思うと、昔の私はどこかで千太郎に恋していたのだと思う。
それが穏やか過ぎて、私自身気付けなかった。