「俺はこのまま消えたら、今までみたいに千太郎の中にはもう残れない。
この体を、千太郎に完全に返す事になる。
俺は、完全に消滅する。
だから、最後の思い出に」
そう言って、私を許すように笑う。
私がこの人に求めているのは、
とても酷く残酷な事。
この人にとっては、それは死に値する。
「私、零に恋してた。
信じてくれないかもしれないけど」
零が私の理想だったからだろうか?
私はこの人を、好きになっていた。
丸3日の短い恋。
「信じるも何も、分かってた。
俺は、ずっと万理を見て来てんだ」
だから、ずっと、っていつから…。
私と零はそっと顔を近付け、目を瞑る。
一瞬、私と零の唇が触れたのを感じた。
それは、すぐに離れて。
このファーストキスの記憶は、
この先、誰にも話さない。
零の存在と一緒に、その記憶も葬り去ろう。
私は、閉じていた目を開いた。
すると、私の横に座る彼も、目を開いた。
「おかえり…」
そう私が声を掛けると、
「ただいま」
千太郎は、私に笑顔を向けてくれる。
それは、いつの頃からか私の側にずっとあった、大切なもの。
やっと、私の横に戻って来た。