「なんか千太郎今日雰囲気違うな?
デートだから?」


その背の高い七瀬君は、空気が読めないのか、まだ話し続ける。


そうやって私を見て、また千太郎に視線を戻した。


やはり、千太郎ではない零の今、
その雰囲気が違う事はみんな気付くんだな。

そして、男女でこんな場所に居たら、
デートだと思われる。


「まあ…」


零は、話を打ち切るようにそう相槌を打つ。


私も、デートではないと、わざわざ否定はしなかった。



「邪魔してごめん。
また明日道場でな」


そう言って、その七瀬君は友達と一緒に私達から離れて行った。


その二人が去って行く姿を、ただ呆然と眺める。



「そういえば、万理はなんで空手辞めたんだ?」


唐突にそう零に訊かれ、え、と驚いた。


そういえば千太郎にさえもその理由をちゃんと話した事無かったな、と思った。


私が空手を辞めたのは、小学三年生の冬。


「私…凄く強かったでしょ?」


「ああ。
だな」


私は空手のセンスが有ったのか、
メキメキと上達して行った。


それが、とても楽しかったのだけど。