「ほら、同じ道場の。
前に千太郎の事話しただろ?」


その背の高い男性は、隣のその小柄の友達にそう言っている。


同じ道場って事は、
空手のって事だろうか?



私はこの人を知らないので、私があの空手道場を辞めてから入った人なのかな?



「ああー。
あの千太郎君?」


その小柄の男性は思い当たったのか、
千太郎の顔を見て笑っている。



「―――七瀬、悪いけど、
俺ら急いでいるからまた今度な」


ななせ、と零はその背の高い男の人を呼ぶけど、
この人は千太郎の友達なのだろうか?


今の零は、明らかにこの七瀬って人に、余計な事を言われて、
それを私に聞かせたくないって感じで。


てか、今は千太郎じゃなくて零だけど、
同じ記憶を共有している二人は、
零も、七瀬って人の事を知っているんだろうな。


この七瀬って人のニヤニヤとして千太郎の事を話す感じ、
きっと悪口みたいな事を言おうとしたんだろうな。


千太郎は男の癖に空手が弱いとか、上達しないとか、そんな類いの事を。


ここ数年、千太郎は空手の試合の成績を、恥ずかしいからと教えてくれなかったけど。


多分、散々なんだろうな。


私と一緒に習ってた時と変わらず。