一人っ子の私にとって、千太郎は幼い頃から本当に大切な存在だった。


同じ幼馴染みでも、一平兄ちゃんは歳も上だし、昔からちょっと近寄りがたいような雰囲気が有ったから、
彼と私はただのお隣さん程度の仲だったけど。


だから、千太郎もそんなただのお隣さん程度の存在だったら、
こんな風に会えなくて寂しいなんて私は思わなかったのに。




翌日も、学校から帰って自宅の扉を開けようとしたら、また零が現れた。


昨日の今日で、零に会いたくなかったな、と思う。


私に千太郎を思い出させる、その存在。


「どっか行かねぇか?」


「どっかって?」


「どっかって言ったら、どっかだよ」


そう言った零の目が、なんだか哀しんでいるように見えて、
断る言葉が出て来ない。


私の気持ちを、読み取ったようなその目。



「―――分かった。
着替えて来るから、待ってて」


私は自宅の扉を開け中に入ると、
自分の部屋に入り、鞄を勉強机に置いた。


そして、一冊の漫画を置く。


今日は、大好きな不良が一杯出て来る少女漫画の新刊の発売日で。

早速、それを学校帰りに買って来たのに、嬉しくないのは…。


いつも、その漫画の新刊が出たら、私が買って、千太郎に貸すのが決まりになっていた。

まぁ、強引に私が押し付けてたんだけど。


面白いから、千太郎も読んでって。


今度、いつこの漫画の新刊を千太郎に貸せるのだろうか…。