「―――まぁ、んな事してないで、とりあえず勉強するか」


零は私からその手をどけ、また勉強を始めた。


私はもう勉強所ではないと思いながらも、
再び問題を解いて行く。


シャーペンを持つ手が震える。


もし、これが千太郎の体じゃなくて、
零という単独の一人の人間ならば。



私はさっきので、ストン、とこの人に堕ちたと思う。


今だって、千太郎の体から零を追い出す事を忘れたわけじゃない。


千太郎を…。



ふと、寂しいな、と思った。



2日前、千太郎が私に告白してくれてから、
千太郎に会っていない。


以前迄、毎日のように千太郎に会っていたからか。


それが、たまらなく寂しくて。


「―――ごめん。
私、疲れたから、自分の家に戻るね」


私はテーブルに広げていたノートや参考書等を纏めると、立ち上がった。


「俺、なんか気に触る事したか?」



どこか不安そうなその零の目は、千太郎を思い出させて、
さらに辛くなる。



「ううん。
本当に、疲れたの」


なんだか、これ以上零と居るのが辛くなって来た。


千太郎に、会いたいなってこの人と居たら、
凄く思ってしまうから。


「そうか。
鍵は開けてていいから」


その零の言葉を聞きながら、
私は千太郎の部屋を出た。


そして、千太郎の家から出た。