「ただ、この海をちゃんと見たかっただけだ」


零のその声やその顔が、どこか切なく見えて。



そっか、この人は初めて自分の目で、ちゃんとこの海を見たんだ。


千太郎の中にいた零には、
外の風景はどんな風に見えていたのだろうか?


「この辺うっせーし陽射し強いから、あっち側行かねぇか?」


零が指を指すのは、
子供の頃よく千太郎と遊んだ岩場の方。



その岩場の水溜まりには、貝や蟹や小さな魚が居て、
よくそれを千太郎と一緒に眺めていた記憶がある。


千太郎はそんな魚達を捕まえる事はなく、ただ眺めるだけで。


私もその影響か、ただその生命を見るだけだった。


それだけじゃなく、千太郎は可哀想だからと、虫を捕まえたり、夜店の金魚すくいすらしなかった。


一時期、そういう所が一部の男の子達から嫌がられ、浮いてた時が有ったけど。



私と零は、自動販売機で缶ジュースを買い、
それを持ちその岩場へと行く。


その岩場は人が居なくて、私達の貸し切り状態。



多少、スカートが汚れるけど、
その岩場の段になっている部分に腰を下ろした。


すると、零も私の横に腰を下ろす。



私は買っていたそのミルクティーのプルタブを開けて、口を付ける。


零はコーラを買っていて、
人格が入れ替わっても、味覚は変わらないんだな、と思った。


千太郎は、昔からコーラが大好き。