向かうのがバイク置き場の方だからか、
エレベーターではなく、非常階段の方へと歩いて行く。


私達が住むのは三階なので、
普段から下りはあまりエレベーターを私は使わないのだけど。


駐輪場やバイク置き場は、非常階段の方にある。



零の後ろに付いて行き、
その後ろ姿を見ていて、これはチャンスだと思う。



どうやったら、また千太郎を取り戻せるのか。


その答えは分からないが、
千太郎から零という人格に切り替わったのは、
昨日、この階段から落ちたから。


だから、もう一度階段から落ちたら…。



零がその階段を一歩踏み出そうとした瞬間、
踵を返して背後に居る私を振り返った。



私は、両手を宙に浮いたポーズで、固まってしまう。




「まさかと思うけど、
お前俺の事階段から突き飛ばそうとしたんじゃねぇだろうな？」



「いや…まさか…」



「言っとくけど、んなんじゃ千太郎に戻らねぇぞ」


「え、じゃあどうしたら？」



階段からまた落ちても、千太郎に戻らないの？


「俺が出て来れたのは、千太郎がお前にフラれ心底傷付いて弱ったからだ。
その隙を突いて俺はこの体を乗っ取ったんだよ」


「じゃあ、どうしたら千太郎は戻って来られるのよ？」



もしかしたら、私はこの状況を楽観視していたのかもしれない。


すぐに、零ではなく千太郎に戻ってくれると。


「まぁ、俺が消えたい、って思えば、俺は消えて、千太郎に戻るんじゃねぇ？」


て事は、目の前のこの人次第って事。



零が消えたい、と思う迄、千太郎はこの体に戻って来れない。