◇
「よぉ」
学校が終わり、私が家の扉の鍵を開けようとしていると、
隣の家の扉が開いて、千太郎が顔を見せた。
ただ、今は千太郎じゃなくて、零。
やはり、この人はまだ零なのだと、
パッと見た瞬間から分かる。
けど、本当に見れば見る程その顔は千太郎で…。
「お前、じろじろ見んなよ」
そう睨まれて。
それが怖くて、ちょっと怯んでしまう。
「今日、体調悪くて学校休んでるって千太郎ママから聞いた。
体調悪いんじゃないの?」
目の前に立っている零は、見る限りに元気そう。
「んなの、サボりに決まってんだろ。
んな事より、お前を待ってたんだよ」
「私を?」
ああ、じゃあタイミングよく外に出て来たわけじゃないのか。
私は自宅に帰るのに、千太郎の部屋の前の共有廊下を通るから、
その窓に映る人影で出て来たのか。
ちなみに、私の家は角部屋だから、
私達家族以外、千太郎の家の前を通らない。
「ずっと寝てても暇だしよ。
どっか行かねぇ?」
なら、テスト勉強しとけよ。
明日から期末テストだろ、と思ってしまうけど。
目の前の零は千太郎と違い怖いから、そんな事は言えなくて。