「そうそう、40手前の、行き遅れのブスのくせにあつかましいんだよね。カッコイイ上司と不倫なんてさあ……」
けたたましい笑い声が遠ざかる……。
打ちのめされた碧子は、逃げるように長年勤めた会社を辞めた。
しかし世間は甘くなかった。
40近いうえに大した資格も持たない碧子の再就職先など、とてもじゃないが見つからなかった。雇用保険もしばらくして打ち切られ、絶望した碧子は、40歳の誕生日に自殺を図ったのだった。
「生きるか死ぬか、どうするかね?」
時の氏神の声に、碧子は「やめて!やめて!!」と耳を塞ぎながら、その場にしゃがみこんだ。
その時……。
ふと、碧子は、自分の足元に目をやった。
こよりのようにより合わさった赤いひも状のものが、自分の足首から伸びている……。
「氏神さま、これは……この紐はなんですか?」
「ああ、それは運命の赤い糸とか、あんたたち人間が呼ぶものだよ。運命によって結ばれる相手と繋がっているという……それと……」
「私にも、私にもその相手はいますか!?」
「そうだなあ……いるかもしれんし、いないかもしれんし……その右足の糸をたぐってごらん」
碧子は、糸をたぐった。
碧子の運命の赤い糸は、碧子の右足から始まって、碧子の左足に結ばれていた。
「そ、そんなー……!!」
「おや残念。その赤い糸は……」
碧子は、何かに思い至ったように、すっくと立ちあがった。
「そうだわ!そうよ!この赤い糸を切って、その先を佐伯課長の足に結びつければいいんだわ!佐伯課長のところへは、また瞬時に飛べるもの!」
碧子の右手には、自殺を図るときに使ったカッターナイフが握られていた。
「そんなことをしてはいけない!やめなさい!!」
ブツン……!
碧子がカッターで糸を断ち切った瞬間、碧子の身体は靄を抜け、底知れぬ暗い奈落へと落ちていった。
「だから言わんこっちゃない。赤いのは運命の糸、一緒により合わさった朱色の糸は玉の緒……寿命の糸だというのに自ら断ち切ってしまっては……まあ、自ら命を絶つものは地獄へ逝くと人間たちは言うがなあ」
時の氏神は奈落を覗きこみながら、トントンと腰を叩いた。
(おわり)
けたたましい笑い声が遠ざかる……。
打ちのめされた碧子は、逃げるように長年勤めた会社を辞めた。
しかし世間は甘くなかった。
40近いうえに大した資格も持たない碧子の再就職先など、とてもじゃないが見つからなかった。雇用保険もしばらくして打ち切られ、絶望した碧子は、40歳の誕生日に自殺を図ったのだった。
「生きるか死ぬか、どうするかね?」
時の氏神の声に、碧子は「やめて!やめて!!」と耳を塞ぎながら、その場にしゃがみこんだ。
その時……。
ふと、碧子は、自分の足元に目をやった。
こよりのようにより合わさった赤いひも状のものが、自分の足首から伸びている……。
「氏神さま、これは……この紐はなんですか?」
「ああ、それは運命の赤い糸とか、あんたたち人間が呼ぶものだよ。運命によって結ばれる相手と繋がっているという……それと……」
「私にも、私にもその相手はいますか!?」
「そうだなあ……いるかもしれんし、いないかもしれんし……その右足の糸をたぐってごらん」
碧子は、糸をたぐった。
碧子の運命の赤い糸は、碧子の右足から始まって、碧子の左足に結ばれていた。
「そ、そんなー……!!」
「おや残念。その赤い糸は……」
碧子は、何かに思い至ったように、すっくと立ちあがった。
「そうだわ!そうよ!この赤い糸を切って、その先を佐伯課長の足に結びつければいいんだわ!佐伯課長のところへは、また瞬時に飛べるもの!」
碧子の右手には、自殺を図るときに使ったカッターナイフが握られていた。
「そんなことをしてはいけない!やめなさい!!」
ブツン……!
碧子がカッターで糸を断ち切った瞬間、碧子の身体は靄を抜け、底知れぬ暗い奈落へと落ちていった。
「だから言わんこっちゃない。赤いのは運命の糸、一緒により合わさった朱色の糸は玉の緒……寿命の糸だというのに自ら断ち切ってしまっては……まあ、自ら命を絶つものは地獄へ逝くと人間たちは言うがなあ」
時の氏神は奈落を覗きこみながら、トントンと腰を叩いた。
(おわり)

