「あなたが女子社員の皆さんの中では一番のベテランですね。よろしく。碧子か……とても綺麗な名前だな。」
……碧子は、このやり取りだけで、佐伯課長を強く意識するようになった……ありていに言えば、一目ぼれしたのだ。
子供の頃から容姿にも恵まれず、真面目だけが取り柄の地味で控えめな碧子は、男子社員からは敬遠され、女子社員からは、後輩であっても小馬鹿にされていた。そんな碧子に優しく接してくれたのは、東京からやってきた佐伯課長だけだった。しかし佐伯は、他の女子社員からも人気の的となっていた。
……それでもいい。
碧子の佐伯課長に対する思いは、密かに日に日に碧子の心につのっていった。
そしてバレンタインデー。
碧子は意を決して、高級チョコレートメーカーのチョコレートのリキュールと、手編みのマフラーを佐伯に贈った。
─カラカラカラ……。
デスクのカレンダーは3月14日
「これ、ホワイトデーのお返しだよ。ありがとう」
そう言って佐伯がラッピングされた小さな包みを碧子の机に置いていった。
碧子が、一人のときを見計らってそっと包みを解くと、中には小さなエメラルドのついたネックレスが入っていた。
佐伯にチョコを贈った他の女子社員には、ハンカチがお返しに配られていたのに……。
『碧子か……とても綺麗な名前だな』
碧子は、佐伯のその言葉を思い出していた。
きっと課長は、私の名前にちなんでこれを選んでくれたに違いない。佐伯課長も私のことが好きなんだ!碧子の心は生まれてこのかた味わったことのない歓喜に震えた。そして……佐伯に『告白』をしようと碧子は決意したのだった。
しかし翌日……。
「麻野君、君に渡したホワイトデーのお返しなんだが、あれ実は妻にために買ったのを間違って渡したんだよ。悪いけど返してくれないかなあ」
佐伯は、ばつが悪そうに、そう切り出した。
「そうですか。どうりでおかしいと思ったんですよね。こちらこそすみませんでした」
碧子はそう言うのが精一杯だった。そのままトイレに駆け込み、個室で声を押し殺して泣いていた。
すると、数人の女子社員が喋りながらトイレに入って来る声が聞える。
「グリーンチャイルドのオバさんさあ、なんか思いっきり勘違いしてたっぽいよ。カチョーがアテクシにエメをくれるなんてー!ってさ」
……碧子は、このやり取りだけで、佐伯課長を強く意識するようになった……ありていに言えば、一目ぼれしたのだ。
子供の頃から容姿にも恵まれず、真面目だけが取り柄の地味で控えめな碧子は、男子社員からは敬遠され、女子社員からは、後輩であっても小馬鹿にされていた。そんな碧子に優しく接してくれたのは、東京からやってきた佐伯課長だけだった。しかし佐伯は、他の女子社員からも人気の的となっていた。
……それでもいい。
碧子の佐伯課長に対する思いは、密かに日に日に碧子の心につのっていった。
そしてバレンタインデー。
碧子は意を決して、高級チョコレートメーカーのチョコレートのリキュールと、手編みのマフラーを佐伯に贈った。
─カラカラカラ……。
デスクのカレンダーは3月14日
「これ、ホワイトデーのお返しだよ。ありがとう」
そう言って佐伯がラッピングされた小さな包みを碧子の机に置いていった。
碧子が、一人のときを見計らってそっと包みを解くと、中には小さなエメラルドのついたネックレスが入っていた。
佐伯にチョコを贈った他の女子社員には、ハンカチがお返しに配られていたのに……。
『碧子か……とても綺麗な名前だな』
碧子は、佐伯のその言葉を思い出していた。
きっと課長は、私の名前にちなんでこれを選んでくれたに違いない。佐伯課長も私のことが好きなんだ!碧子の心は生まれてこのかた味わったことのない歓喜に震えた。そして……佐伯に『告白』をしようと碧子は決意したのだった。
しかし翌日……。
「麻野君、君に渡したホワイトデーのお返しなんだが、あれ実は妻にために買ったのを間違って渡したんだよ。悪いけど返してくれないかなあ」
佐伯は、ばつが悪そうに、そう切り出した。
「そうですか。どうりでおかしいと思ったんですよね。こちらこそすみませんでした」
碧子はそう言うのが精一杯だった。そのままトイレに駆け込み、個室で声を押し殺して泣いていた。
すると、数人の女子社員が喋りながらトイレに入って来る声が聞える。
「グリーンチャイルドのオバさんさあ、なんか思いっきり勘違いしてたっぽいよ。カチョーがアテクシにエメをくれるなんてー!ってさ」

