報われない恋をした。

好きになった人は、兄貴の恋人。

一目惚れだった。

「僕の彼女の花音(かのん)だ」

その場で僕の初恋は、終わりを告げたのだ。


***


「なぁ!蓮!髪型変じゃないか?」

「大丈夫だよ。いつもと変わらない」

「いつもと変わらない? だめじゃないか!いつもよりかっこよくないと!」


双子の兄貴の零(れい)が、朝からソワソワして様子がおかしい。シャツなんか着て、格好もいつもよりカチッとしている気がする。


「何? どうしたの?彼女にプロポーズでもすんの?」

「そうだよ! 今からプロポーズをしに行って来るんだよ!」


心臓が跳ね上がった後、何かに掴まれたみたいにぎゅっと締め付けられた。
兄貴は花音にプロポーズをしに行くらしい。
いずれ2人は……と思ってはいたが、やっぱりショックだった。

でも、2人には幸せになって欲しい。

応援する事しか僕には出来ない。


「ほら、襟がおかしいぞ! よし! これで大丈夫だ。いつもよりかっこいいぞ。兄貴! 頑張って来いよ!」

僕は兄貴に拳を向ける。
すると、兄貴は「頑張ってくる!」と拳を突き合わせた。僕たちのやる気スイッチが入る瞬間だ。小さな時からやる決まり事。


「蓮!頑張ってくるわ!」

その笑顔は、ドアから差し込んだ光に溶けそうなぐらい儚かった。

妙な胸騒ぎの中、僕は兄貴に手を振った。




プロポーズ無事に成功したかな? そんな事を思いながらベッドに寝転ぶ。
兄貴が花音と結婚するのは、本当に嬉しい事だ。 
でも、僕の想いはどうすればいいのだろう?
永遠の片想いをしていかなくてはいけないのだろうか?

辛いな……辛い思いをするなら、2人から離れるしかないな。
それが、一番いい選択だ。

眠りに身を任せ、瞼を閉じようとした時、

目の前に気配を感じて飛び起きる。



『蓮!起きろ!』


「あ、兄貴?」


目の前には兄貴が居る。
あれ? ドアから入ってきた気配はなかったよな?


兄貴の体が変だ。裸足だし、体も霧の様に透けている様に見える。目を擦り、また兄貴を見てみるが、やっぱり透けている。


『蓮、ごめん! 僕の身代わりなってくれ!』

「えぇ?身代わり?」

『僕はさっき死んだ。だから、僕の代わりに花音にプロポーズをしてきて欲しい!』

「えぇ? し、死んだ?!」

は?意味が分からない!


『とりあえず、説明は後だ!花音が〇〇公園で待っているから今すぐ行ってくれ!』


兄貴は、紺色のリングケースを僕の手のひらに握らせた。そして、力いっぱいに背中を押す。


言われるがまま、僕はドアを開け放ち〇〇公園へと向かう。

今から兄貴の身代わりになり、花音にプロポーズをしに行く。


(つづく)