肝だめしが終わり、夜のイベントを締めくくるように花火が始まった。既にカップルだった奴らは二割増しで楽しみ、肝だめしで仲良くなった男女グループも、普段の三割増しではしゃいでいた。
そんな連中を眺めながら、神イベントに参加できなかった虚しさにうちひしがれていると、新山が困ったような顔つきで近づいてきた。
「ねえ、流星見なかった?」
「流星? そういえばまだ見てないな」
新山に聞かれ、はしゃぐ連中に目をこらす。西野とは肝だめしが終わった後に合流し、神山の残念会をどう避けるかの打ち合わせをすることになっていたけど、どうやらまだ戻って来ていないみたいだった。
「あいつ、肝だめしが終わったこと気づいてないんじゃないのか?」
「それなんだけどさ、ちょっと気になることがあるの」
「どうした?」
明らかに暗い顔して声のトーンを落とした新山から、妙な気配が伝わってきた。
「流星なんだけど、肝だめしの時に出てこなかったの」
「あ? 出てこなかったって、どういう意味だよ」
「そのまんまだよ。でね、みんなに聞いたんだけど、流星が出てきたのを見た人はいるみたいなの。でも、その流星を見た人たちってのが、私たちの前までなの」
みんなの輪の中に流星がいないか探すように視線を送りながら、新山が状況を必死に説明する。少し取り乱してはいるけど、大体の状況は伝わってきた。
「つまり、麻美たち以降は誰も見ていないってこと?」
俺の念押しに、新山が強張った表現で頷き返してきた。となると、新山たちが来るまでの間に、西野の身に何かがあったということになる。
「変な話だけど、この前、迷い熊のニュースがあったよね? もしかして、この辺りも熊とか出たりしないよね?」
生ぬるい夜風に消えそうな声で、新山が呟いた。その瞳は微かに揺れながらも、俺に否定してほしいと訴えていた。
不意に、周りの音が遠くなっていった。不快感を増した風が、嫌な予感を伴って頬にへばりついてくる。ニュースでは、迷い熊が捕まったとはいっていたけど、だからといってここにいないという保証にはならなかった。
「ちょっと探しに行ってくる」
嫌な予感が一気に不安へと変わり、俺は落ち着かない手で懐中電灯を握りしめた。ここでいくら考えてもらちがあかないので、すぐに流星を探すことにした。新山もついていくと言ってきたけど、万一を考えて一人で行くと突っぱねた。
けど、そんな俺の言うことを新山は聞こうとしなかった。一緒に探すという主張を崩すことなく、真剣な眼差しで訴えてきた。
こうなると考えを変えることはないとわかっているけど、それでも拒否して先に行こうとした時だった。
「麻美、花火なくなっちゃうよ」
タイミングの悪さもおかまいなしに、のんきな声を出しながら腕を組んだカップルが、花火の入った袋を手に近寄ってきた。
――え?
カップルが近づいてくるのを見た瞬間、妙な胸騒ぎが起きた。その胸騒ぎの意味はわからなかったけど、何かが見えたような気がして、必死で胸騒ぎの手がかりを探した。
僕は、恐く思えたんだ――。
不意に脳裏によぎる西野の声。西野は、新山に彼氏ができることで、三人の関係が変わることを恐いと表現した。
けど、俺はどうだろうか。俺は、三人の関係が変わるのを寂しいとは感じたけど、恐いという感情を抱くことはなかった。
そんな俺と西野の違いを探ってみる。俺は、好きな人と上手くいったら、迷うことなく付き合うだろう。けど、西野は俺以上にもてるくせに、これまで何度もそうしたチャンスを自ら潰してきた――。
――ひょっとして
不意に浮かんだ西野の暗い表情。あの日の帰り道、夕日を背にして浮かべた憂いの表情には、別の理由があったのかもしれない。
そうなると、導きだされる可能性は一つ。
そんなはずはないと否定しつつも、俺の中で可能性はすぐに確信に変わっていった。
「これ、もらうぞ」
カップルが手にしていた花火の袋から、無造作に線香花火だけをもぎ取った。
「流星の所に行ってくる。けど、行くのはやっぱり俺一人だ」
「ちょっと、線香花火なんか持ってどこに行くつもり? それに、行くなら私も――」
「駄目だ!」
線香花火を手にした俺を不思議そうに見ていた新山が、再び食い下がってきた。けど、俺は力強く拒否した。
一瞬、たじろいだ新山がむきになって迫ってきたけど、俺の気配に何か感じたのか、俺の腕を掴んだ手を離した。
「流星なら心配ない。けど、今は俺一人で行かせてくれ」
諭すように呟いた言葉に、新山は何かを感じとったかのように黙って頷いた。
「後でまた合流するから」
それだけ伝えると、今頃一人でいるはずの西野のもとへ足早に向かった。
そんな連中を眺めながら、神イベントに参加できなかった虚しさにうちひしがれていると、新山が困ったような顔つきで近づいてきた。
「ねえ、流星見なかった?」
「流星? そういえばまだ見てないな」
新山に聞かれ、はしゃぐ連中に目をこらす。西野とは肝だめしが終わった後に合流し、神山の残念会をどう避けるかの打ち合わせをすることになっていたけど、どうやらまだ戻って来ていないみたいだった。
「あいつ、肝だめしが終わったこと気づいてないんじゃないのか?」
「それなんだけどさ、ちょっと気になることがあるの」
「どうした?」
明らかに暗い顔して声のトーンを落とした新山から、妙な気配が伝わってきた。
「流星なんだけど、肝だめしの時に出てこなかったの」
「あ? 出てこなかったって、どういう意味だよ」
「そのまんまだよ。でね、みんなに聞いたんだけど、流星が出てきたのを見た人はいるみたいなの。でも、その流星を見た人たちってのが、私たちの前までなの」
みんなの輪の中に流星がいないか探すように視線を送りながら、新山が状況を必死に説明する。少し取り乱してはいるけど、大体の状況は伝わってきた。
「つまり、麻美たち以降は誰も見ていないってこと?」
俺の念押しに、新山が強張った表現で頷き返してきた。となると、新山たちが来るまでの間に、西野の身に何かがあったということになる。
「変な話だけど、この前、迷い熊のニュースがあったよね? もしかして、この辺りも熊とか出たりしないよね?」
生ぬるい夜風に消えそうな声で、新山が呟いた。その瞳は微かに揺れながらも、俺に否定してほしいと訴えていた。
不意に、周りの音が遠くなっていった。不快感を増した風が、嫌な予感を伴って頬にへばりついてくる。ニュースでは、迷い熊が捕まったとはいっていたけど、だからといってここにいないという保証にはならなかった。
「ちょっと探しに行ってくる」
嫌な予感が一気に不安へと変わり、俺は落ち着かない手で懐中電灯を握りしめた。ここでいくら考えてもらちがあかないので、すぐに流星を探すことにした。新山もついていくと言ってきたけど、万一を考えて一人で行くと突っぱねた。
けど、そんな俺の言うことを新山は聞こうとしなかった。一緒に探すという主張を崩すことなく、真剣な眼差しで訴えてきた。
こうなると考えを変えることはないとわかっているけど、それでも拒否して先に行こうとした時だった。
「麻美、花火なくなっちゃうよ」
タイミングの悪さもおかまいなしに、のんきな声を出しながら腕を組んだカップルが、花火の入った袋を手に近寄ってきた。
――え?
カップルが近づいてくるのを見た瞬間、妙な胸騒ぎが起きた。その胸騒ぎの意味はわからなかったけど、何かが見えたような気がして、必死で胸騒ぎの手がかりを探した。
僕は、恐く思えたんだ――。
不意に脳裏によぎる西野の声。西野は、新山に彼氏ができることで、三人の関係が変わることを恐いと表現した。
けど、俺はどうだろうか。俺は、三人の関係が変わるのを寂しいとは感じたけど、恐いという感情を抱くことはなかった。
そんな俺と西野の違いを探ってみる。俺は、好きな人と上手くいったら、迷うことなく付き合うだろう。けど、西野は俺以上にもてるくせに、これまで何度もそうしたチャンスを自ら潰してきた――。
――ひょっとして
不意に浮かんだ西野の暗い表情。あの日の帰り道、夕日を背にして浮かべた憂いの表情には、別の理由があったのかもしれない。
そうなると、導きだされる可能性は一つ。
そんなはずはないと否定しつつも、俺の中で可能性はすぐに確信に変わっていった。
「これ、もらうぞ」
カップルが手にしていた花火の袋から、無造作に線香花火だけをもぎ取った。
「流星の所に行ってくる。けど、行くのはやっぱり俺一人だ」
「ちょっと、線香花火なんか持ってどこに行くつもり? それに、行くなら私も――」
「駄目だ!」
線香花火を手にした俺を不思議そうに見ていた新山が、再び食い下がってきた。けど、俺は力強く拒否した。
一瞬、たじろいだ新山がむきになって迫ってきたけど、俺の気配に何か感じたのか、俺の腕を掴んだ手を離した。
「流星なら心配ない。けど、今は俺一人で行かせてくれ」
諭すように呟いた言葉に、新山は何かを感じとったかのように黙って頷いた。
「後でまた合流するから」
それだけ伝えると、今頃一人でいるはずの西野のもとへ足早に向かった。