彼と海へ泳ぎに来ていた。

私はあまり泳げないけど、いつものデートとは違ったのでドキドキした。水着もせっかくだから、新しいものを買って着てみた。

夏の焦げる様な日差しが海に反射して、キラキラして眩しかった。


「くらげいるかな?」
「居たら怖いよ。刺されたら痛そう」

「実は……」
彼は海を見ながら話した。


「海が怖いんだ。海渡なんて名前なのに情けないんだけど」
「どうして?」

「小さい時に海で溺れて、それからずっと怖くて泳げないんだ」

「だから、水槽でふわふわと泳ぐくらげが羨ましかったんだ」

だから、くらげをずっと見ていたんだね。
「知らなかった。じゃあどうして来たの?」

「千波と来たら克服出来るかもって思ったんだ」

「じゃあ、一緒に入ってみよっか?」

うん、と彼が頷いた時、


「きゃあ!助けて!!」
と女の人の叫び声がした。

「子供が溺れているの!助けて!」
と私達の方へ急いで走って来た。彼女はもう、我を忘れているかの様に泣き喚いている。

海原の遠くで小さな手が助けを求めている。

ど、どうしよう?
彼も私も泳げない。誰かの助けを呼ばなきゃ!



「僕が助ける!」
と彼は怖いはずの海へと飛び込んだ。


「海渡くん?!」


その姿はまるで、彼といつか見た熱帯魚みたいに美しかった。美しい青い水飛沫を上げる。

美しい光景に目を奪われている内にその小さな子供は助けられ、彼の姿は見えなくなった。

あのくらげみたいにふわふわ漂いながら、水の泡の様に溶けて消えた。
静かに、脆く、儚く。

私は必死に彼を探す。

「海渡くんどこ?嫌だよ!どこにも行かないで!!」
私のたくさんの涙は、青い海原に波紋を広げては溶けていく。

彼はどこへ行ってしまったの?