「もう、私のことなんてやめた方がいいよ」
彼女は唇を尖らせて、僕と目を合わせることはなくそう言った。
「どうして」
そう僕が言うと、また更に唇を尖らせる。
「どうしても。だって、私、どうしたらいいか分からなくなる」
「どうもしなくてもいいよ。そのままでいてくれれば」
僕は、確かに彼女が好きだ。だけど、彼女と付き合いとか、そういう気持ちは胸の奥底にしまった。
そうじゃないと、彼女といることが僕にとっても彼女にとっても辛くなることを分かっていたからだ。
だけど、彼女はまだ納得のいかないような顔をしている。
「そういうことじゃない。そうじゃなくて。そうじゃなくて……」
「いいよ。僕が好きで勝手に思ってるだけだから。大丈夫」
ふわふわとした彼女の栗色の髪を撫でた。猫みたいにふわふわした細いこの髪すら愛おしい。
僕は、この短期間でこれほどまで彼女に惹かれてしまったらしい。
「でも、私、どんどん気持ちが大きくなるの。自分勝手に中途半端なままにして、それなのに、気持ちだけどんどん……」
「うん。分かってる。大丈夫だから」
テーブルの上に一粒の雫が落ちた。
彼女は目元を指先で拭い、僕は、彼女の髪を優しく撫で続けた。