なんとなく、嫌な予感はしていた。

彼女から誘いがあった瞬間に、少しだけ、彼女が言うことを想像できた。

だけど、実際に言われると思っている以上に胸が苦しくて、どうやって表情を作ればいいのか分からない。


ひとつ、ふたつ、と大きく息を吸い込む。

そして、ゆっくり彼女がいる方に顔を向けると、彼女は瞳から溢れ出る大きな雫を何度も何度も指先ですくっていた。


「どうして泣くの。幸せなことでしょ」

「だって」

「だって、じゃない。“おめでとう”って言われたら、“ありがとう”でしょ？」

「でもっ」


大粒の涙を溢し、子供のように顔をぐしゃぐしゃにして泣きじゃくる彼女は、本当に苦しかったのかもしれない。


「みんなそれぞれ違う良さがあるんだから、複数の人に魅力を感じることだってあるんだと思うよ。彼のことも好きだから、君はプロポーズを受けたんでしょ？　たまたま、好きな人が同時に2人いたっていうだけ。僕は、たまたま選ばれなかったっていうだけ」

何もおかしくないし、君は悪くないよ。


そう言って、僕は彼女を励まし、僕自信にもそう言い聞かせた。