「私、結婚するの」



ーー一瞬、時が止まったのかと思った。


地面を踏む右足。その膝を伸ばしては曲げて、僕の体ごとゆらゆらと揺れていたブランコ。しかし、揺れていたブランコは彼女の一言をきっかけにぴたりと動きを止めた。

どこに焦点を合わせればいいかも分からず、ただ僕は数メートル先を転がった黄色いボールを見ていた。


「そっか」


やっと返せた返事は、たったその一言。


僕は、少しだけ混乱していた。けれど、冷静さを欠いてはいなかった。その証拠に、砂場を転がった黄色いボールを追いかける少年を見ながら、自分が置かれている状況をしっかり把握することができる。


ああ、そうか。ついにこの日がきてしまったのか。



「おめでとう」



僕は、今にも消えてしまいそうな震えた声で一言付け足した。



僕のことを一度は好きだと言った、僕の好きな人。



彼女は、僕ではない男と結婚するらしい。