その日は、たしかテスト明けだった。
 友達がデートだとか言って遊ぶ約束を断ってきたので、仕方なく父の店に向かったように記憶している。

 ちりんとドアが音を立てると、カウンターの向こうにいた人物がこっちを向いた。 
 父がいるはずの場所に、見たことのない若い男がいる。

「誰?」
 不審げに問いかけるとその男も首をかしげ
「君は?」とぶっきらぼうに尋ねた。

「ここの娘だけど」
「ああ、きみが江海(えみ)ちゃんか。水田です。3日前から手伝うことになって」
「お父さんは?」
「ミルクが切れたからって買いに行ってる」
「じゃあ、しばらく帰ってこないと思う。パチンコに寄ってるはずだから」