わたしは沙奈絵ちゃんの隣に座った。

 彼女と小坂さんの前にコーヒーを置きながら、父が言った。
「さーちゃんと水田くん、おんなじ大学出身だって」
「そう。さっき、その話をしてて。わたしが4年のとき、1年だっけ」 

 沙奈絵ちゃんはカウンターの向こうでグラスを拭いているシド兄に笑いかけた。
「接点はなかったけど。科も違うし」
「いや」
 とシド兄は言いながら、わたしの前にお(ひや)のグラスを置いた。
「おれは知ってましたよ。東田さんのこと。ピアノ科のマドンナ。友達にもおおぜいファンがいたし。だから驚きましたよ。マスターの姪御さんだったなんて」
「もう、やだ。照れちゃうでしょ、そんなこと言われたら」