あれはまだ、わたしたちが中学一年生のころ。
 ある陸上の大会に、碧人が出場することになった。
 一年生で選ばれたのは、碧人だけだった。

『すげーじゃん、碧人! ぜってー、勝てよ!』
『いっせー、あんまり碧人にプレッシャーかけんなよ』
『は? プレッシャーがなんだ! おれは誰よりも速い、って気持ちでいかなきゃだめだろ! なぁ、碧人?』

 一成が瑛介くんの忠告を振り切り、碧人の肩を組み、顔をのぞきこんでいる。

『はは、まぁ、がんばるよ』
『強気だ、強気! 強気でいけよ! 碧人は三中陸上部の、期待の星なんだから!』
『だから、いっせー、プレッシャーかけるなって』

 みんなに囲まれ、碧人はいつもみたいに笑っていた。

 でもその日の帰り、わたしが忘れ物を取りに部室に戻ろうとしたら、碧人がまだグラウンドで走っていたんだ。