わたしたちはそのまま、なにもしゃべらなかった。
 アイスを食べ終わっても。夕陽が沈んでも。

 そしてあたりが薄暗くなり、街の灯りが灯りはじめたころ、わたしたちはやっと腰を上げた。

「じゃあ」

 マンションの前まで来ると、碧人が言った。碧人とはいつもここで別れる。
 わたしはポケットからミルク味のキャンディーを取りだし、碧人に差しだした。

「碧人。これあげる」

 碧人はじっとキャンディーを見つめている。

「アイスおごってもらったお礼だよ」

 碧人の手がゆっくりと動き、わたしの手からキャンディーを受け取った。
 ほんの少し触れた碧人の指先は、かすかに震えていた。

「もらっとく」
「うん」

 碧人が背中を向けて去っていく。わたしはその姿が見えなくなるまで見送る。
 それから今日もひとりでマンションのなかへ入った。

「ただいま」
「おかえり、夏瑚」

 お母さんの声を聞きながら、灯りの灯ったリビングに入る。宿題をやっている万緒の横を通りすぎ、ベランダの窓をカラリと開いた。
 リビングの灯りがほんのりと差し込むなか、わたしの鉢植えが並んでいる。

「ただいま」

 緑の葉は昨日よりもまた少し、成長しているようだった。