「あ、起きた? 水原さん」

 目を開けたら、見慣れた保健室の天井が見えた。
 ベッドで寝ているわたしの顔を、鴨ちゃん先生が覗きこんでいる。

「あれ……わたし……今日保健室来たっけ?」

 覚えがない。

 鴨ちゃん先生は静かに微笑む。

「体育の時間、グラウンドで倒れたの、覚えてない?」

 ああ、そういえば。
 スタートラインでホイッスルの音を聞いたあと、体が揺れて……

「貧血と寝不足ね。水原さん、夜ちゃんと眠れてる?」
「あー、ついスマホゲームがやめられなくて……」

 鴨ちゃん先生がため息をつく。

「うなされてたよ? 『ごめんね、ごめんね』って」

 わたしはゆっくりと体を起こし、ぺろっと舌を出した。

「あれ、鴨ちゃん先生に、寝言聞かれちゃった? やだなぁ、もう。彼氏にも聞かれたことないのに」

 先生はふっと頬をゆるめて、わたしのぼさぼさ頭をぽんっと叩く。

「冗談言ってないで、夜はちゃんと寝なくちゃダメ」
「……はぁい」
「今日はこのまま帰りなさい。おうちのひとにお迎えきてもらう?」

 わたしはぶんぶんっと首を横に振った。

「大丈夫。ひとりで帰れるよ」

 鴨ちゃん先生はまた小さく笑って、わたしのリュックを差しだした。

「クラスの女の子たちが心配してたよ。今日は早退だねって話したら、水原さんの荷物持ってきてくれた」

 そうか。あのテニス部の子たちかもしれないな。

「明日、お礼言う」
「そうだね」

 わたしは鴨ちゃん先生から荷物を受け取って、いつもみたいに、にっと笑ってみせた。