「つめてえ」
「やっぱり冷たいんだあ」
「あのな、まだ6月だぞ」
「たしかにー、もう夏だもんねえ」
「さすがに早くね」
「ううん、もう昨日から夏だよ?」
「なんで」
「えー、生きてればわかるじゃん」
「いや、わかんねえよ」
のびのびとした声にいちいちツッコミを入れるのも、こいつが俺よりあほだってもう確証したからで、いつまでもにこにこ笑っているそいつは、急に「あ!」と声を上げる。
「もう学校行かなきゃ―」
「はっや、呼んどいて5分しかいねえのか」
「でもー、5分でもきみと話せたからラッキーじゃん?」
「誰得だよ」
「わたしとく!」
海に浸かるままの俺を放置して、じゃーね、背を向けて走っていく。
「あ!」
「今度はなんだよ」
「名前聞くの忘れてたー!」
「…志茂空汰」
「シモクウタ!くーたね!ばいばいくーた!」
「なんでそんな片言なんだよ!」
「わたし毎日いるから、たまに遊びに来てね!」
「…だから、とーいんだっつーの!」
最後まで俺の文句を聞かないまま走って去っていって、また気づけばその後姿は視界からいなくなっていた。
5分間の台風とアイツにあだ名をつけて、俺は堤防に戻ってスケッチブックを開いた。