「……なんだよ、誰?」

「きみ、いま来たの?海を見に?」

「そうだけど」

「海が青いか確かめに?」

「……悪いかよ」


ふふ、なんて可笑しそうに片手で口を押さえて笑っている初対面の女に対してなんだこいつと警戒すれば、そんな警戒に気づいたのかもっと可笑しそうに笑った。



「ねえ、明日の朝もう一回来なよ!」

「はあ?」

「海は、太陽出てるうちに見ないと」

「………、」

「明日の9時!海が青いこと教えてあげるよ!」

「明日雨予報だけど」

「いや、晴れるよ?」

「どっからくんのその自信」

「まあ、晴れるからさ、おいでよ、海」

「……だから、お前は誰なの?」

「わたしはねー、ナツ!」

「……、」

「きみの名前は、明日きくね、じゃあ、また明日ね!」




ぱたぱたとはだしで駆けていくそのセーラー服に向かって「おい、行くとは言ってねえから!」と投げかけたけれど、振り返ることもなく、走ったまま気づけば見えなくなっていた。


なんだ今の、幻か?
なんて阿保らしく思うくらい一瞬の出来事だった。

台風みたいな勢いのやつだ、突然現れて、たったの5分しないうちに消える、意味の分からない女に出会ってしまった。





そして俺はまんまと、その台風に振り回されることになる。