『海の色って角度変えるだけで全く別の色に見えるんですよね、センパイのそのパレッド、海の深さレベルを5段階で表現してるみたいっす』
美術部に変なやつが多いという偏見は、あながち間違っていないと思う。
そんなことは作品を見れば一目瞭然だが、あの女っ気ゼロの唯一の部員も相当な天才だと思っている。(本人には絶対に言わねえけど)
この場所からは海が見えない。
こんな山奥にある学校で、どうやって海を想像すればいいんだ。
この山をずっと下れば海があるのはわかっているけどそこへ向かうのすらめんどくさくてもう何年も降りた記憶が無い。もはや空と海の色は大して変わんねえだろうとやけくそになっている。
「………あーー、海って何色だよ」
ペンを放り投げる行為は、たぶん天国で見ている爺がブチギレる案件だがしょうがない。
適当に塗りたくった5つの青は、ちっとも腑に落ちない。
教科書すら入っていない空っぽのスクールバックに画材を詰めて、放り投げた筆はしっかりと元に戻して、混ざり合ったパレッドの色は何となくスマホのカメラに収めてから洗って、流した冷たい水に少しだけ癒されながら、そんな時間は無駄だと教室を出た。
時刻は18時10分。
日が伸びた空は一向に暗くなる気配がしないまま、やっぱり大して海も変わんねえ色をしているんだろうとやけくそに原チャリにまたがった。