スケッチブックを開く。
真っ白だったページは、気づけば青で埋め尽くされている。

来るたびに同じ場所から描いていた海は、どれを見ても、全て同じじゃなかった。


一枚だけ切り取られたページに書いてあったのは、おそらく、海だけではなかっただろう。




「じいちゃん、夏、終わる?」

「そうだなあ、終わるかもなあ」

「まだこんなに暑いのに?」

「季節の終わりは人それぞれだろうな」



8月はまだ残っている。
俺の感覚で言うならば、夏は7月から9月までだったけれど、今年の夏はそれよりももっと、早かった。



「ナツが、きてから」

「……、」

「ナツが、いなくなるまで」

「ハハ、じいちゃんにはよくわかんねえなあ」



海は毎日顔色を変えている。
それでもずっと、見守るようにそこに居る。



「海、青かった」

「いまさら何を言うんじゃ」

「夏って、思ってた以上にあっという間っすね」

「夏が一番野菜がうまいんだけどのお」

「じいりゃんの野菜、うまかった」


「そうじゃろ、また来年も来ればいい」





堤防に腰かけている俺と、立っているじいちゃんの前に、見覚えのある蝶々がひらひらと飛んでいた。


そこにゆっくりと手を伸ばす。

まっすぐに伸ばした人差し指に止まった青が、呼吸をするように、羽をゆっくりと動かしていた。






「そうっすね、また、夏に」