「…なあ、思ってたんだけど」
「うん?」
「学校、もうないのになんでずっと制服なの」
「…制服好きだから?」
「なんで5分しかいないの?」
「…学校行かなきゃだから?」
「帰ってくお前見てても、絶対逸らしてないのに、気づいたらいない」
「…瞬きするから?」
「ナツ、おまえは、」
「くーた」
立ち上がってスカートの砂をはたいていた彼女がまたゆっくりとしゃがむ。
俺と同じ視線の高さで止まって、口に人差し指を置いた。
「空汰に出会えて、よかった」
無知で、無垢で。
何にも知らない、台風みたいな女。
触れても確かに存在する、それをどうして今まで一度も確かめてこなかったのだろう。
その存在が本当だってことを、ずっと信じていたかったかもしれない。
確かなぬくもりがある。
それなのに、どうしてこんなにも寂しそうで、吐かなくて、あっけないのだろう。
わずかに触れた唇から伝わる熱が、
“ナツがそこにいる”
それだけを、証明しているようだった。
「じゃあね!」
「……ナツ、絶対待ってろよ」
「ハハ、わかったってば!早く完成させてね!」
「3日で仕上げてやるわ」
「うん、わかった!」
後姿を追っている。
いつまでも、瞬きだって、絶対にしていない。
瞳がからからに枯れて、それを潤すかのように涙が視界を邪魔して、それでもその後姿を追っていた。
「──ありがとう、空汰」
それでも彼女は、気づいたらどこにもいなかった。