「くーたのキャンバス見たかったなあ」
「見に来れば」
「いつ完成する?」
「まー、夏休みはずっとかかるな」
「そっかあ」
夏の終わりの話をするときに少し暗くなる表情、
少し肌寒い日に顔色がいつもより悪くなるところ、
急に雨が降りそうになったら、慌てて学校へ向かう背中。
全部、理由を聞けないまま、
ただふたりで、海を眺めて、くだらない話をして、ナツが帰った後も、ひとりで海を眺めて、ペンを走らせる。
どんどん暑くなっていく、夏が過ぎていく。
海に通うことに慣れて、日陰を見つけて隠れ家のように岩陰に隠れて海を記憶に残して、シャッターを切って、青を見比べる。
通えば通うほど、海は毎日色を変えていくような気がする。
アイツが海《ここ》に憧れるのも、毎日のように見ていればわかるような気がした。
「──もうすぐ夏も終わるなあ」
「え、もう終わるんすか?」
「見ろ、もう全部収穫したんだよ」
堤防に座っていると、海の隣で畑をしているじいちゃんがトマトやキュウリを持ってくる。
畑にはひらひらと蝶々が舞っていて、堤防から先には飛んでこないその蝶に向かってじいちゃんは手を伸ばしている。
「もう、お前も元気がないなあ」