コートを羽織って、カップケーキのごみをゴミ箱に捨てて立ち上がった。
同じように向かいで先輩が立ち上がって、二人一緒に、バックルームを出た。
「お疲れ様です」
「お疲れーい」
お店はひと段落していて、溜まった洗い物をせっせと片づけをしていたり。
相変わらず、店内は静かだった。
「さ、む」
「…ホントですね」
裏口の扉を開ければ冷たい風がわたしたちを襲って、先輩は分厚いジャンパーに身を縮こませた。
「朱莉ちゃんは今日も自転車?」
「はい、先輩はバイクですか」
「うん」
センパイのバイクは相変わらず大きくて、これに乗ってる姿って、たぶんいつもよりもずっとかっこいいんだろうな。
「…先輩、」
「ん?」
センパイのジャンパーの裾をきゅっと握った。
わたしの自転車の鍵は、バックのそこで眠っている。
自分が何を言い出そうとしているのか、その覚悟は、ちっともできていなかった。
「…先輩の後ろ、乗せてください」
「…え?」
「バイク、一度でもいいから乗ってみたかったんです」
センパイのバイクは二人で乗れるくらいに大きい。
バイト終わりの先輩は、このバイクに乗って彼女さんを迎えに行っていた。