曲がり角を曲がる手前、欲しかった声がわたしの背中に届いて、

涙をコートでぬぐって、ゆっくり振り返った。





「…、ありがとう、」



わたしを追いかけてきた先輩が、わたしの濡れた頬を見て、悲しそうに顔を歪ませた。

それから伸びてきた腕が、手のひらがわたしの頭の上に乗っかって、ポンポン、と優しくそこを撫でた。




「…ッ、」

「伝えてくれてありがとう、」

「ごめ、なさい、」



押さえていた涙がもう一度溢れて、わたしは俯いてそれを先輩から隠した。



なんで朱莉ちゃんが謝るの、

先輩の焦った言葉にぶんぶん首を横に振る。




「気を付けて、帰るんだよ」

「…曲がれば、もう家です、」

「はは、そりゃ近いね、」



わたしが泣き止むのを待つように先輩の手のひらがわたしの髪にやさしく触れるから、そのせいで結局涙が止まらなくて。



…やっぱり、先輩の優しさは甘くて苦い。


「…かえ、ります」


そう言えば、手のひらがそっと離れて、わたしのこころがきゅっと苦しくなる。

離れても触れていても、先輩がくれる手のひらは、苦しい。




「…また、ドライブ行こうね」

「…っ、行きます」

「うん、じゃあ、また明日」


ペコ、と頭を下げて、それから背を向けた。





涙と、どうしようもない呼吸の苦しさも、寒さも全部、消えてしまえばいいって思うのに、

先輩が次の話をしてくれるから、わたしは結局、先輩のことをもっと好きになってしまう。