バイクの出すスピードは、自分が思っているよりも全然早くて、本当に落ちてしまいそうで怖くて、全力で先輩にしがみついていた。
信号が赤になって、可笑しそうに先輩が笑いながら振り向いて、「必死だね、」なんて言ってくるから口をとがらせた。
「先輩、」
「ん?」
走行中はこんなにも近くにいる先輩の声が全然聞こえないし、わたしの声も全然届かなかった。
先輩、ってもう一度大きな声で呼べば、返事が返ってきた。
「バイクって寒いんですね!」
大きな声だして言うのがそれかよ!
なんてツッコミが返ってくるから、わたしは笑って、寒いです!って繰り返した。
冬にバイクって乗るもんじゃないんだ、
なんて、年中バイクのってるセンパイに言ったら、まだまだだなって言われる。
またもう少し暖かくなるころに乗せてくれますか、
なんて言ったら、また困った顔、するんですか。
先輩を困らせたいわけじゃないのに、先輩の困った顔も全部わたしは好きです、なんて言ったら、ダメだよなあ。