「…自転車で来たんでしょ?」
「…明日歩いてくるんでいいです」
「…でも、」
「先輩、」
困った顔をしている先輩を見上げる。
先輩の片手に握られたバイクのキーに、先輩の趣味じゃない可愛いマスコットがついていた。
「…まだ後ろに、誰も乗せたくないんですか?」
わたしの意地悪な言葉に、先輩の表情がクシャっと歪んだ。
先輩、情けないですよ。
いつまでも未練たらたらで、かっこ悪いままでもいいんですか。
そんな煽り文句に聞こえたのだろう。
先輩は一度俯いてから、わたしのほうをじっと見つめた。
「…いいよ、乗っても」
サドルをあげたところから出てきた、先輩のよりも一回り小さいヘルメット。
先輩はそれを私の前に差し出した。
「これ、つけて」
「元カノさんのですか?」
「…朱莉ちゃん、優しいって言ったの、やっぱり訂正するね」
先輩の弱みをつつけば、それだけ先輩は情けない姿を見せる。
別に、弱くても情けなくても、先輩のこと全然嫌いにならない。
むしろ、新しい先輩を見れている気がして、わたしはどうしようもなく嬉しいのだ。