ピシンっと、身体の中心に一本の大きな棒が通ったように背筋が伸びると、そのまま身体は引っ張られるように起き上がる。腕も曲がらずに覆いかぶさった土を刺すようにして伸ばすと指先が外気に触れた。その瞬間、身体全体が土の中から現れ、ぽろぽろと袖から土が落ちた。

 瞳を開けた孫麗の前には黒い服を着た道士が地面に描かれた六芒星の中心に立ち、ぶつぶつと何かを唱えている。すると、カッと目を開く。
「符術、黄泉転生(よみてんりん)
 道士は手に持った札を孫麗のひたいへと貼ると孫麗の身体はかっちりと固定されたように動かない。身体はまっすぐ、腕も前へまっすぐ。
 道士は一息ついたように自身の首回りを袖で拭った。後ろで結ばれた長い髪が揺れる。
 孫麗はなにが起きたのか何もわからない。
 ここは、山の中だ。
 山の中? 
 どうして私が山に?
 頭の中がぼやけて不明瞭だ。しかし何か大事なことを忘れているような感覚だけはあった。
 そんな孫麗に御構い無しといった様子で道士はふむふむ、と直立した孫麗の周りを歩きながら開いているのかわからないほどの細目で見回す。
「なるほど、木を隠すなら森の中、死体を隠すなら死体の中というわけか。さしずめ、どこかの皇女が暗殺され、ここに埋められたというところか」
 孫麗はあたりを見ると長く生えた雑草に隠れてあちこちに石碑が転がっている。
 ここらは昔、身寄りのない戦没者を埋めた墓地だったらしいが世話をするものもいなくなりすっかり荒れてしまっている様子だ。
「強い眷属を作ろうと思ったのに、可愛らしい召使ができてしまったな」
 ひたいに貼られた札をめくり、頬を撫でてくる道士の手を払い、孫麗は道士を平手打ちした。
「なにすんのよ!」
「えぇ!?」
 そこで孫麗は自分の身体が自由に動くことに気がついた。ひたいに貼られた札が孫麗の鼻の先に擦れる。
「これなに?」
「それは俺の術式を流す札で……」
「邪魔なんだけど」
 札を剥がすと道士は細い目をかっ開く。
「剥がしたぁ?!」
「人の顔に勝手に貼らないでよ。失礼でしょ」
 道士の耳には孫麗の文句が聞こえていなかった。頭の中は目の前で起きた不可解な現象についてでいっぱいだ。
「どうして動けるんだ? 殭屍《キョンシー》は道士の術式により生前の肉体を取り戻し、その対価として魂を失くし、道士の命令に付き従う存在なはずのに」