「ミヤ、年明けツアーでしょ?」

「うん、東名阪だから、忙しいかも」

「うわすげえなあ、まじで、目の前にいるのが有名人だなんて、変な気分だよ」

「リキにとってはただのお隣さんでしょ」

「気心知れてる姉貴みたいな感覚」

「姉貴、ね」

「同じ21とは思えないわ、ほんと」



インディーズデビューをして1年がたった。
去年の冬に出した曲がヒットして、メジャーデビューが決まるのもそう遅くないと、マネージャーは喜んでいた。

毎日ライブハウスに通う日々、全国を回る毎日は、私の人生の中で一番楽しい。



年明けから忙しくなる、これはもうずっと前からわかっていたことだし。

またしばらく家に帰らない生活になる。


でもそれが私の生きる世界で、そこにお隣さんのことを考えている余裕なんて、ない。




リキが視線をベッドの横にたてかけているギターに移す。

わたしの音楽であふれている部屋に、リキははじめて入ったときにとても驚いた顔をしていた。

生活感のない部屋だった音楽倉庫は、この一年で日常が少し増えた気がする。


リキがわたしの部屋に訪れるようになったからだ。



眠るためだけに帰っていた部屋は、リキを慰めるために帰るようになった。


ほっとけない男のことをほっとけない私も、よっぽど不憫だ、と思う。