深夜二時半、きみに出会ったあの日のことを思い出してうたっている。
きみと過ごす真夜中ために、自分の部屋の居心地がよくなったんだ。
好きでもない缶チューハイは、気づいたら錯覚で好きな気がしていた。
ふたりで唄うあの時間が、誰にも邪魔されないあの時間が、好きだった。
隣の部屋の鍵が、かち、と閉まる音がした。
きみとあの子が部屋に入った合図だ。
きみは今日も、自分の気持ちを殺して、あの子のことを慰めるのだろう。
あの子の矢印がとっとと死んでしまえばいい。
ひどい振られ方をして、心がズタズタになって、そうしてバカな幼馴染のことを呼べばいい。
慰めてもらえる、呼んだらすぐに来てくれる、その大切さにちゃんと気付いてほしい。
あの人の矢印に気づいて、お願いだから、早く振り向いて。
あなたがその恋を葬ったら、わたしがそこでうたってあげる。
心から幸せだと思える唄を、ふたりのためだけにつくってあげるよ。
そうしたらまた、きみもそのへたくそな鼻唄を奏でてほしい。
わたしは、涙を自分で拭える。
べつに誰かに頼らなくたって息をしている。
自分の想いは音楽にのせて、誰かの心に共感してもらっている。
それでも、糸にもなれなかった一方通行の矢印は、今日もこっちを向かないきみのほうを向いたままだった。